初めてのインド旅行で安宿へ

旅先で、年月を強烈に感じることは旅好きな人にはしばしばある感覚でしょう。私も、インドでその経験をしました。ニューデリーの安宿街といえば、パハールガンジ地区のメインバザール。安く旅行したい旅人たちが世界中から集まります。私も1990年に初めてインドに行ったときには、この通りに直行して宿を探しました。ガイドブックで評判がよさそうだったのが、日本人が多く泊まっていることで有名な「ホテルパヤル」という安宿でした。

ニューデリーの名物ゲストハウス「ホテルパヤル」のオーナーさんと、年月を経た再会 ニューデリーの名物ゲストハウス「ホテルパヤル」のオーナーさんと、年月を経た再会

安宿は驚きの連続。店番のお兄さんと仲良くなる

部屋の壁はピンクと黄色のペンキで塗りたてられ、その無秩序さにたじたじ。いわゆるバックパッカー旅行(当時はそんな言葉もありませんでしたが)も初めてならインドも初めての私は、インドの安宿というのはこんなにボロいのかと驚きました。冬のデリーは寒いのにシャワーはほぼ水で、汚いバケツにお湯を汲んでもらって、どうにか体を洗うという経験も初めてしました。フロントへは階段を上がって行きますが、メインバザールの通りに面した階段の入り口に、いつも同じお兄さんが丸椅子を出して座っていました。このお兄さんはなかなかオシャレな若者で、かなり長めのヘアスタイルにショッキングピンクのマフラーを巻いていました。彼がホテルのマネージャーなのかどうかはわかりませんでしたが、日本語が上手だったのでよくしゃべりました。きょろっとした目が快活そうな印象のお兄さんでした。

思い出と突き合わせながらドキドキの再訪

その後ちょうど10年たって、再びデリーのメインバザールに行きました。急にホテルパヤルのことを思い出し、泊まらないけれど行ってみたのです。ああ、こんな階段だった、こんなフロントだった、と感慨にふけりましたが、記憶の中にあったホテルよりだいぶシックになっていて、「今では個室もピンクと黄色じゃなくなっているだろうな」と思いました。そして、フロントの中にいたおじさんは……。あのおしゃれだった若者は、すっかり落ち着いたおじさんになっていたのです。もちろんショッキングピンクのマフラーはなく、長髪はさっぱりと短く整えられています。このときほど、旅の中の時間と現実の時間との非情なズレを思い知ったことはありませんでした。

あなたの“鏡”となる行き先はどこ?

気を取り直して話しかけてみます。「私はここに10年前に泊まっていましたよ。あなたはピンクのマフラーをして、いつも通りを見て座っていたでしょう?」私のことを覚えているわけはありませんが、かつてのお兄さんは「そうそう!あのマフラーが好きでしたね。」と言って笑いました。その目が10年前と同じで、やっとあのマフラーのお兄さんと彼が同一人物だという確信を持ったのです。彼がこんなに年を取ったということは、この私もなのね、と、鏡を見るような感慨にふけりました。過ぎた年月を見つけに行く旅というのは、非情ですが強く思い出に残るものですよ。